レトロアーキテクチャの幻影

たとえば深紅の天鵞絨(びろうど)のソファアだとか

ちょっと

なに

いきなり?

何が

何のウンチクか知らないけどいきなりですかっての。普通あるでしょ、こう・・第一回目なんだからさ。ナレーションとかないわけ?

君ねえ———やれやれ。人生短いんだよ

君って言うのやめて

と~もちゃん♡

き、気持ちわるっ。君でいいです

そうそう、最初からそうやって素直にしてくれればいいものを。そんでねトモちゃん

あーもうめんどくさい———ト・モ・ち・ゃ・ん・って誰よっ!


で?天鵞絨が何ですって

うーん。ほら、イマドキは昭和だのレトロだのって言うと大体イメージが固定的じゃん。例えば同じレトロでもロマンが付くと何故か急に大正ロマンっぽくなっちゃったり

あるいは「三丁目の——」だったりさ

いいじゃない別に。だめなの?

だめじゃないけど・・・

はは~ん。それね、今日のウンチクは。実際にその時代を生きた俺としてはとかなんとか言っちゃうつもりね

人を戦中派みたいに言うなっての。ただちょっと・・・

そうやって遠い目をして寂しそうにしていれば女の気を惹けると———痛い痛い・・・悪かったってば

中野のクラシックってもうないんだってな

知らない

ほらクラッシックを聴かす喫茶店。コーヒー用のミルクをマヨネーズのキャップ?で提供するとこ

へ?どおいう事それって?でも話が見えて来た。次はたぶん文豪たちが集った居酒屋ね。そしてそーいうのを残せって・・

そういうのは無いんだよ俺。以前坂本龍一が下北沢を——

固有名詞はやめて

別にまずい事は言わないのに。でもアーキテクチャって意味では近いな

もったいぶらないでよ

違うって。こっちも手探りで話してるんだ。この店もそうだけどモザイクタイルの壁とか燻した様な風合いの床とか


で、そういうのが見当たらないと、こういうわけね

同じことやってても現代の内装は垢抜けすぎちゃってるというか、妙に洗練され過ぎてる気がしてさ

まあわかるけど。デザインの教本にでも載っていそうでまるでチェーン店みたい

おお、それだ。うまいこというねぇ、そうそう。でもだからと言って年季が入ってればいいってもんじゃなくあくまでもデザインの違い・・かな?ちょっと自信ないけど

あなたそれこそCGで作っちゃえば?だって表現したいんでしょ

だからそこなんだよ問題は。なぜナレーション無しだったかわかる?

あ、もしかして———って、おかしいじゃない。イメージはあるんでしょ?だったら・・・

もちろんイメージはあるさ。例えば仕事だけど以前訪ねたリフォーム済みの物件がそう。これだ!って思ったもん。でも最低もう一回拝見させてもらうとか・・・出来れば写真撮らせて欲しいよな

イメージはあって、でも漠然とし過ぎ。だからナレーションで店内描写することもCGで再現することも・・

そういう事

そのリフォーム済み?私も見てみたいけど今さらお邪魔するわけにはいかないものね。その当時あなたが何屋さんだったかは知らないけど

照れ屋さん

あ~ん(# ゚Д゚)? 聞・こ・え・な・い・わ・ね。もう一度言ってもらおうかしら?


——— そしてその漆喰の壁は足元に置かれた照明にぼんやりと照らされ、わざと不均一に塗られた壁はまるで波のように揺らいでいる ———

とかな。だめだ全然違う。これじゃエスニックだ

・・・・

——— 間口のわりには思ったよりも中は広く暗い船室を思わせた。その一番奥の壁にはタイルが貼られ一際怪しげな色彩を鈍く放っている ———

ちょっと

なんすか

もっと具体的な話じゃなかった?

具体的って?

探し出して今度行こうとか

それは君が言ったんだよ。あ、言ってないかも。とにかく行くにしてもまず具体性が無くて困ってる

じゃあどうして小説の件(くだり)みたいなこと言い始めてんの?しかもなんでドヤ顔

ドヤ・・いや文章としてはまずまずかなーなんて・・・どっかで使おっと

全くあなたっていつもそう。論点は同じなんでしょうけど話のベクトルが・・

お、なんか論理的な事言い始めてんな

はぐらかさないで


でもあれだな。昔はあったと思うのも何かの文章に見たと思うのも実際には自分が感じ入った佇まいや描写の集合体・・幻影なのかもしれないな

何、急にあきらめ顔で。最初は噛みつくような勢いだったくせに。あなた飽きたんでしょう・・

違うって。違う違う。この間今度は絵を見ていて同じ感覚に至ったんだよ

私、絵は・・

いやわかるさ、藤田ミラノとか。別冊マーガレットとかさ

わ、わかんな~い♡


―――俺はその時、今見てもモダンだと感じさせるそんなレトロなアーキテクチャと、そしてそれら昭和の少女漫画に代表されるある種のアートの世界構成とは完全に合致する感性だってことに気がついた

そしてそれはおそらくノスタルジーではなく人々も、そして自分さえも失った忘れられたカテゴリー―――


 了


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